東京高等裁判所 昭和24年(ネ)726号 判決
控訴人等代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴人代理人に於て被控訴会社の本店と買收の目的となつた別紙目録記載の土地(以下本件土地)とはいづれも横浜市港北地区の地域内に存在していると述べ、控訴人等代理人に於て被控訴人主張の右事実及び本件土地が自作農創設特別措置法にいわゆる被控訴人所有の自作地にもその所有の小作地にも当らないことはこれを認めると述べた外原判決の事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する(証拠省略)
三、理 由
本件土地が從來被控訴会社の所有に属していたこと、控訴人横浜市港北地区農地委員会(以下地区農地委員会という)が昭和二十二年九月九日右土地について、昭和二十一年法律第四十三号自作農創設特別措置法(以下法という)第三条第一項、同条第五項第三、四号に基き買收計画を定めて公告し、被控訴人がこれに対し異議を申立てたが同月二十四日却下され、更に被控訴人がこれに対し神奈川県農地委員会(以下県農地委員会)に訴願をなしたが同農地委員会は昭和二十三年六月一日地区農地委員会において本件土地につき法第三条第一項、同法第五項第三、四号に基き買收計画を定めたのは違法であるが法第三条第五項第五号に基き買收計画を定める限り適法であるから地区農地委員会の買收の決定を取消すべきではないとして訴願を棄却する旨の決定をなし、右決定が同年七月十四日被控訴人に送達されたこと、及び控訴人神奈川県知事内山岩太郎(以下県知事という)が右農地買收計画により昭和二十三年六月十五日附買收令書を以て本件土地につき買收処分をなし、右買收令書が同年七月十七日被控訴人に送達せられたことは当事者間に爭がない。
よつて先づ地区農地委員会が本件土地につき定めた買收計画の適否について案ずるに、成立に爭のない甲第七乃至第九号証(甲第八、第九号証は原本の存在についても爭がない)原審証人鈴木秀三、同松岡愛藏、同江藤直輔、当審証人赤沼悦郎、原審における被控訴会社代表者大河原栄之助の各供述右大河原栄之助の供述により成立を認めるに足る甲第十号証を綜合すれば、被控訴会社は金属延圧業を目的として設立された株式会社であるが昭和十四年中その工場建設の敷地とする目的を以て本件土地(当時水田一部畑)を買受けこれを山土砂礫を以て数尺(平均六尺)の高さまで埋立て昭和十五年中その完成を見たところ、当時の社会情勢のため工場建設は一時これを中止し右敷地をそのまゝ空地として置かざるを得ない事情にあつたこと、しかるに昭和十六年中近隣の居住者四十六名は逐次無断で右土地に立入り蔬菜類の栽培を初めるに至つたが、その後昭和十八年中被控訴会社においては右地上に工場の建設を進めることゝなり、右の者等に土地の明渡を申入れたところ、同人等は容易にこれに応じなかつたが昭和二十二年七月中神奈川県小作主事鈴木謙二から被控訴会社及び右土地使用者椎橋要藏外四十名を相手方として横浜地方裁判所に小作調停の申立をなし、これにより同年八月五日同裁判所において右使用者等は本件土地を同年十一月三十日までに被控訴会社に返還することの調停が成立したこと、またこれより先同年五月中右土地の使用者武内敏介外四名も、被控訴会社にその使用土地を任意返還したことを認めることができる。
右認定に反する原審証人吉田康造、同加藤芳吉の供述は前記証拠と比べこれを採用することはできない。尤も右土地の使用者等が甘藷、蔬菜類を数回に亘り被控訴会社まで運び入れた事実は原審証人鈴木秀三の供述により認められるけれども、右農作物は同人等から直接被控訴会社從業員等に供給されたものであり、右從業員等からその代金の支払を受けたことも右証人の供述により明であるから右の事実によつては右使用者等が本件土地を被控訴会社の承諾を得ないで使用していたとする前の認定を左右するに足らないし、他に右認定を覆し右使用者等が本件土地を使用する権原を有していたことを認めるに足る証拠はない。以上に認定した事実によれば、本件土地(登記簿上の地目は從來の田、畑のまゝであつた、)は被控訴会社において工場敷地として造成したのであつたが、その後他の者に無断で耕作されるに至つたゝめ被控訴会社はこれを使用することを妨げられていた状況にあつたと認められる。從つて本件土地は被控訴会社において耕作の業務の目的に供していなかつたのであるから法にいわゆる自作地に当らないものというべく、また本件土地は所有権以外の権利を有する者によりその権原に基いて耕作されていたのでもないから法にいわゆる小作地にも当らないものといわなければならない。(本件土地が自作地にも小作地にも当らないことは当事者間に爭がない。)しかるに法第三条第一項各号は農地の所有者の所有する小作地を、同条第五項第三号は法人その他の団体の所有する自作地を、同項第四号は法人その他の団体の所有する小作地をそれぞれ買收の目的とする規定であることは規定自体に徴し明であるから地区農地委員会が本件土地につき法第三条第一項、同法第五項第三、四号に基き買收計画を定めたのは違法といわなければならない。次に県農地委員会がなした前記裁決の当否について案ずるに、元來法第三条第一項各号に基く農地の買收処分と同条第五項各号に基く、農地の買收処分とはその理由を異にするばかりでなく、後者の場合には都道府県農地委員会または市町村農地委員会の買收を相当とする認定行爲を要する点において前者とその手続きを異にするのであるから右の両者は別箇の行政処分と認めるのが相当である。また法第三条第五項第三、四号に基く農地買收処分と同項第五号に基く農地買收処分との関係においてもそれぞれその理由を異にし從つて右農地委員会の買收適否の認定も必ずしも同一の結果に帰し得ないことは容易に推測し得られるところであるから右の両者の間においても行爲の同一性はないものと認めるのを相当とする。而して右裁決においては法第三条第一項、同条第五項第三、四号に基く農地買收処分はこれを違法となすと共にこれを法第三条第五項第五号に基く買收処分としてその效力を維持せんとするものであることは前に述べたとおりであるが、このように第一の行爲を違法としこれを第二の行爲としてその效力を維持することは第一の行爲についてばかりでなく第二の行爲についてもその成立を可能ならしめる理由があると同時に行爲者において第一の行爲の無效であることを知つたときは第二の行爲の成立を欲していたものと認められる特別の事情がある場合を除いては許されないものと解すべきである。もし漫然これが許されるときは第二の行爲についてその理由を不服とする者ももはや異議訴願をなす機会を失い保障された権利を奪はれる結果となることも明である本件においては法第三条第一項同条第五項第三、四号に基く農地買收処分を違法なものとしこれを同条第五項第五号に基く農地買收処分としてその效力を維持することはそれについて右のような特別の事情があることを認めるに足る何等の証拠もないのであるから許されないものといわなければならない。しからば地区農地委員会の本件土地に対する買收計画を支持し被控訴人の訴願を棄却した県農地委員会の裁決は不当である。
更に県知事の処分の適否について案ずるに、知事は被控訴人に対し地区農地委員会の定めた農地買收計画により買收処分をなしたのであるから右買收計画が違法である以上これに基いてなされた右買收処分も違法であつてこれが取消を免れないものといわなければならない。
しからば被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴はいづれも理由がない。
よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十三条第九十五条を適用し主文のとおり判決をする。
(裁判官 岡崎隆 多田威美 野本泰)
(目録省略)